泣きむしメダカ(完結)

あくる朝、
黒メダカは目を覚ましました。


カエル博士が横にいます。


「おぅ起きたか」
「今、息子が朝メシをとりにいってるよ」
と、カエル博士は言いました。


しばらくすると、
黒いヘンテコがご飯を持って帰ってきました。


すると、
黒いヘンテコに足が生えていて、
黒メダカは驚きました。


「ど、どうしたの?その足」
と、黒メダカはいいました。


すると、黒いヘンテコはこたえました、
「あぁ、俺らは大人になると足と手が生えてくるんだよ」
「驚くだろ?」


黒メダカはただ驚いて、
うんうん、とうなずくことしかできませんでした。


続けて黒いヘンテコは言いました、
「今日は仲間のところにいってくるから」


「え?」
と、黒メダカはいいました。


すると黒いヘンテコがいいました。
「仲間が1164匹いるんだよ」
「俺は、224番目に生まれたんだ」
「今日はそいつらに会いにいかなくちゃいけないんだ」


黒メダカは、
カエル博士と留守番をすることにしました。
その間にいろいろな話をしました。


黒メダカは、
仲間を置いて出てきたことを少し後悔していること、
物知り爺さんが、
井の中の蛙、大海を知らず』
の話をしてくれたことなどを話しました。


カエル博士はいろいろ話を聞いてくれました。
「仲間や家族は一番大切なものだよな。
確かに、みんなに心配されたり寂しい思いをさせるのは良くない
だけど、一番重要なのは自分自身が幸せになって、
仲間や家族に元気であることを伝えたり、
伝えようとすることだよ」


続けて、
「息子も、家族思いの気のきく子どもなんだ」
と、言いました。


黒メダカは、
黒いヘンテコに仲間がいることが羨ましくなり、
自分にも仲間がほしいと思いました。


続けて、カエル博士は、
井の中の蛙、大海を知らず』について話はじめました。


カエル博士は、
海が大きく雄大で仲間がたくさんいることなどを話すと、
黒メダカはすっかり聞き入ってしまい、
海に行ってみたくなりました。
黒メダカは
「海にはいけないの?」
と、カエル博士に聞きました。


「いけなくもないが・・・」
と、カエル博士はこたえましたが、
海行くには危険も多いので、
はっきりとこたえるか迷いました。


その後も、
カエル博士はゆっくりと話し、
黒メダカは時間を忘れて話をききました。


すると、
黒いヘンテコが帰ってきました。


今度は、黒いヘンテコから手が生えています。
形がだいぶんカエル博士に似てきました。


黒メダカは、
カエル博士と話したこと・・・
つまり、
海に興味を持ったことや仲間を心配していること、
黒いヘンテコに仲間がいて羨ましいことを
黒いヘンテコにも話しました。


しばらく
黒メダカと黒いヘンテコが話しこんでいると、
黒いヘンテコは言いました。


「いっそ海を目指して、仲間を探してみたらどうだい」
「田んぼから、海までは、
川を下ればそんなに遠くないみたいだし」
「おやじに相談してみるよ」


海に行くことを考えたら、
黒メダカはドキドキしてきました。
黒メダカは仲間がほしいのです。


何日か田んぼで過ごした穏やかな日でした、
カエル博士は海までの行き方を、
黒メダカに教えました。


「今日みたいな穏やかな日がいい、
ほら、そこの灌漑の出口があるだろう、
あそこをから出ると流れが急に速くなるんだが、
しばらく行くと、池のような遊水地にでる、
そしたら、右へ右へと進むと川にぶつかる」


続けて言いました、
「川の流れは急だが、流れに逆らわずに下れば、
海はそんなに遠くないと聞く」


さらに続けて言いました、
「困ったことがあったら、川にいる魚に聞きなさい、
身なりが似ているし、川魚はみんな優しいからね」


黒メダカは、
川魚が優しいと聞いて安心しました。


そして、
黒メダカは、
黒いヘンテコとカエル博士と最後のあいさつをして、
カエル博士に言われた通りに灌漑から出ていくことにしました。


言われた通りの道順で行くと、
川まではあっという間につきました。


確かに川は流れが急ですが、
見る景色全てが物珍しくて、
黒メダカはとても楽しい思いでした。


途中、何度か海までの道順が分からなくなっても、
大きな鯉が、ゆっくりとした口調で教えてくれました。
鯉は、海の近くに小さな池があって、
そこは川の流れがなく休めることも教えてくれました。


黒メダカは、
本当に川魚が優しくて、嬉しくなりました。


そして、
しばらく川を下っていくと、
鯉に言われた小さな池を見つけ、
少し休んでから海を目指しました。


少し川を下っていくと、
メダカはだんだんと息苦しくなり、
ついに進めなくなってしまいました。


とにかく体を休めなくてはと思い、
さっきの小さな池まで戻ることにしました。


川を逆に泳ぐのは大変でしたが、
なんとか小さな池まで泳ぐことができました。


そこで、息をととのえていると、
顔がとがった魚に話しかけられました。


「だいじょうぶかい?
ずいぶん青い顔をして」


黒メダカはこたえました、
「川を下っていたら、急に息が苦しくなって」


顔がとがった魚は、
「ふむ」と、言ってから続けてこたえました。


「それは君が川魚だからだよ、
僕らはボラという名前で川でも海でも大丈夫なんだ、
ここらは汽水域だから海の水と川の水が混ざっていてね、
海の水は塩というものが入っていて、
川魚の君が生きていくことは大変だよ」


黒メダカはショックを受けてしまいました。
その様子を察して、顔のとがった魚は優しく話してくれました。


「ほら、海を知らなくても、
幸せなんか近くにあるものだよ」


「カエルの親子はいい人じゃないか、
そこは自分の居場所かもしれないよ、
優しくしてもらえそうじゃないか、
そこへお戻りよ」


しばらく話した後で、
長い顔の魚は海のほうへ、
仲間と群れをなして下って行きました。


黒メダカはたくさん考えました。


大きな丸い鉢にいたころが懐かしくおもわれました。


ですが、
過去には戻りたくても戻れないことを知りました。
幸せは、過去のことではなくて、
将来のことも重要なのだと悟りました。


また、
仲間や家族の大切さを、
本当に強く感じました。


黒メダカがいろいろ悩んでいると、
あたりは真っ暗になり、
池にはだれもいなくて、
余計に寂しくないりました。


ついに、
黒メダカは、大きな声で泣き出してしまいました。


泣き虫な黒メダカでも、
今までしたことのないような大泣きで、
池の水が涙であふれかえってしまいました。


黒メダカは一晩中泣きつづけ、
池も一晩中涙であふれかえっています。


朝方になると、
黒メダカは泣きつかれ、
いつの間にか眠ってしまいました。


それでも池の水は、
黒メダカの涙であふれかえっていました。


黒メダカはくったりと疲れ、
長い間眠っていたようです。


黒メダカはまわりが騒がしいのと、
強い太陽の光で目が覚めました。


「ざわざわ」
「ざわざわ」

 
「なんだコイツは」


「ざわざわ」


黒メダカは驚いてしまいました。
まわりは大小さまざま、
色もさまざまの魚がたくさん自分を見ていて、
水中には枝のような色とりどり綺麗なものが生えていました。


黒メダカは一番近くにいた、オレンジ色の小さな魚に言いました。
「ここはどこ?」
「あの綺麗な枝は?」
「君たちは?」


オレンジ色の小さな魚は、
黒メダカの勢いに驚きながらこたえました。


「ここは海さ、
あの枝はサンゴといって、
ここでみんなと協力してくらしているのさ」


黒メダカは驚いて、
「え!」と大きな声をあげてから、
今までの経緯をまわりの魚に聞こえるように、
説明しました。


すると、黄色い魚が言いました。


「たぶん・・・」
「いつもの間にか池の中が涙の塩水で満たされ・・・」
「そこにしばらく居たせいで、海水に耐性ができて・・・」
「それから、それから・・・」
「あふれた水で川に出て、ここまでたどり着いたものと予想されます・・・」


「ほー」
と、まわりの魚たちから感心のため息がついたあとも、
黄色い魚はぶつぶつと推論を語っていましたが、
まわりのみんなの関心は他にうつり、
黒メダカは矢継ぎ早に質問攻めにあいました。


黒メダカは苦をしたようですが、
ついに海にたどり着き、
多くの仲間と幸せに暮らしました。


ですが、
突然現れた黒い魚だったので、
黒いヘンテコと名前がついてしまったようです。


でも、黒メダカは、
カエル博士の息子と同じ名前で胸をはったそうですよ。


おしまい


2010年6月6日