泣きむしメダカ(第2話)

「ぱしゃん」
めだかは、おもいきって水をけりました。
すると体が大きく水面から浮き上がり、
大きな丸い鉢の輪郭の外側に、
体が「するっ」と落ちていきました。


ここから飛び出すことについて、
仲間の黒めだかに最後のあいさつをしたのですが、
仲間の黒めだかは、
「君がいなくなったら僕は一人になってしまうのはさみしい」
と言いました。
つい最近まで、仲間の黒めだかは、
「自分が幸せになることが一番で、そのためには頑張るべき」
と、話していたのに、
これでは話が矛盾しています。


同じ黒めだかでも、
考え方が違うことは、たびたびありました。
なので、
めだかは自分がどうしたいか一生懸命考えて、
自分で決めることにしました。


ヒレにも相談したかったのですが、
ヒレは、すやすや眠っていて、
以前に起こした時に、猛烈に怒られたので、
相談はできませんでした。
そもそも赤ヒレとは文化が異なっていたので、
自分の興味があることに、
興味を持ってくれるとは、あまり思えませんでした。


だから、めだかは悩んだ末に自分で決めて、
大きな丸い鉢から、田んぼを目指すことにしました。


めだかは、
「ぺっとしょっぷ」で生まれてから今まで、
自分自身で自分のことを決める機会がなくて、
そんな自分の生活に、
大きな変化がくることなどないと諦めていました。
でも、今回は自分で決めることができたので、
とてもうれしい気持になりました。


そうして、飛び出したのです。


めだかの体が、
ばしゃっと、大雨が降る地面に落ちました。
雨を含んだ、べちゃべちゃ地面に落ちたので、
痛くありませんでした。
ただ、呼吸ができなくて、
とても苦しくなりました。


なんとか水のある場所までたどり着こうと、
必死で尾ビレを動かしましたが、
なかなか思うようにいかず、
どんどん苦しくなっていきました。


めだかは、
大きな丸い鉢の中に戻りたい気持ちで、
くじけそうになりました。
辛くて、苦しくて、涙が出てきました。


もうだめだと思い、
体から力が抜けてしまい、
「今までの生活から変化がなくても、
幸せなこともあるんだな」、と思いました。


最後の力で、
めだかは地面を強く尾ビレでたたきつけました。


すると、めだかの体が、
「ぷかっ」と、水につかりました。
呼吸ができるようになり、
めだかは、ほっとしました。


どうやら、めだかは大きな水たまりに飛び込んだようです。


ですが、
水たまりには、雨が強く打ちつけ、
水たまりの中に、速い流れができています。
流れが速く、めだかは思うように泳げません。


こんなことは今まで一度だってなかったので、
めだかは不安になりました。
いつもは、
仲間の黒めだかや赤ヒレ、どじょう一家に相談したりできたので、
安心できました。
めだかは、今回は初めて自分で決めて行動をしたのですが、
初めて一人になって、
いままで、みんなのささえがあって自分がいるのだと思いました。
大きな丸い鉢の中で、
仲間の黒めだかは一人ぼっちになってしまったので、
さみしい思いをさせてしまっていると思うと、
めだかは罪悪感を感じました。


めだかは、水たまりの中を、
どんどん流されていきました。
すると、体が「ふわっ」と浮き上がりました。


そして、浮きあがったかと思ったら、
今度は、「ぼちゃーん」と、
何やら少し臭いのある水の中に落ちてしまいました。


めだかは、雨水用の側溝に落ちてしまったようでした。


少し臭いのある水のなかは、
さっきの水たまりより流れが速く、
めだかは、何が何だかわからなくなってしまいました。
死にもの狂いで、
どこか流れが安定している所に泳ぎ着こうと必死になりました。

めだかは、
「ビール」と書かれた、
銀色の、固い、ひんやりとした容器の中に逃げ込みました。
「ふー」と大きなため息をつきました。


めだかは、
大きなため息のあとで、
仲間の黒めだかが以前に、
「自分が幸せになることが一番で、そのためには頑張るべき」と、
話していたことを思い出しました。
「よし、ここまできたら仲間の黒めだかの言葉を信じて頑張ろう」
と、田んぼに行く夢を実現させようと決心しました。


めだかは、
「ビール」と書かれた、
銀色の、固い、ひんやりとした容器の中で
少しだけ休むことにしました。
ですが、
疲れていた体に、ほっと安心したことと、
缶の中にあまっていたビールのアルコールのにおいで、
眠くなってしまい、
いつの間にか居眠りをしてしまいました。


つづく


2009年8月15日より