ぼろぼろ猫

ぼろぼろの猫は、
喧嘩に大負けした日でした。
体が小さいから、
いつも負けるのだけれど、
今回は手ひどくやられてしまいました。


その時おじさんは、
いつもの新聞配達店で新聞を配達する準備をしていました。



新聞配達の仕事が昼休みになり、
おじさんはいつもの公園でお弁当を食べていると、
公園の隅っこで小さくうずくまっている
、ぼろぼろの猫をみつけました。
おじさんは猫が身動きをしないので心配になり、
近くに見に行きました。



ぼろぼろの猫は、
おじさんが近くに来ると、
ジッとおじさんの顔を見ましたが、
何もする気力がわきませんでした。
「おめぇきたねえな」
そう言いながら、
おじさんはお弁当の残りをわけてやることにしました。
「食うかな」
と、おじさんは言いながら猫にウインナーをあげると、
ぼろぼろの猫はガツガツと食べました。
「食った、くったぞ」、
と、おじさんは小声で言って、
少し嬉しくなりました。



新聞配達店のおじさんは、
喧嘩をして傷だらけの猫が、
喧嘩っ早かった昔の自分の姿と重なってしまい、
その猫が自分の子分になったような気持ちになりました。
新聞配達が終わり、
仕事を終える時間になっても猫はうずくまっていたので、
おじさんは、
弁当の残りのウインナーを全てあげました。



いつもの仕事の帰り道、
おじさんは、
晩ご飯のお弁当を買おうとしたコンビニで、
猫の缶詰めが目に入り、
おもわず手にとって見てしまいました。
「馬鹿に高いな・・・」
「猫ってのは、こんなにいいものを食ってんだな」
と、おじさんはつぶやきました。
それでも猫のことが気になってしまい、
一つ買っていくことにしました。
猫の缶詰めなんか買ったことなかったので、
おじさんは、
猫の缶詰をレジに通すとき、
少し恥ずかしい、
と思いました。



次の日、
おじさんは、いつもの出社が少し楽しみになっていました。
「あいつ、今日はいるかな?」
ですが、
昨日ぼろぼろの猫がいた場所には、
何もいませんでした。
「なんでぇ、いねぇのか・・・」
「恩を知らない奴だ」
「ぶつぶつ・・・」
おじさんは、
腰のあたりで手を組んでいましたが、
楽しみにしていた猫の缶詰めも一緒に手に握っていました。
その姿を新聞配達店の仲間や店長さんが見て、
くすくすと、笑っていました。
おじさんは、
根っから不器用で、
おおざっぱな方なので、
新聞配達店の仲間は、
猫の心配をしているおじさんがおかしかったのです。



夕刊の配達が終わるころには、
雨がパラパラ降ってきました。
「あいつ、なにしてんのかなぁ」
と、おじさんは、
ぼろぼろの猫が何をしているのか気になっていました。
いつもの時間に仕事が終わり、
おじさんが帰ろうとした時でした。



窓をガラッとあけて帰ろうとすると、
雨でぬれた、ぼろぼろの猫がちょこんと座っていました。
「・・・おぅ」
おじさんはうれしさで恥ずかしくなりました。
そして、
「来たのか」
と、ボソっと言い、
カバンから猫の缶詰めを出しました。
おじさんは自分の汗ふきタオルで、
ぼろぼろの猫を拭いてあげました。
「きたねぇなぁ」
とか、
「タオル、くせぇかもしれねぇけど我慢しろよ」
とか言いながら、
ぼろぼろの猫を優しく拭きました。
おじさんの姿を見て、
新聞配達店の仲間や店長は、また笑いました。
おじさんも笑われて恥ずかしくなり、
「へへっ」
と、鼻をかいたり、
頭をかいたりして照れ笑いしました。


猫はお腹がすいていたので、
缶詰めをたくさん食べました。
そうして、一か月ほどの間、
おじさんは、
仕事の後で毎日猫に猫の缶詰めのご飯をあげました。
その甲斐あって、
ぼろぼろだった猫は、
だんだん傷も治り元気になりました。


おじさんは、
仕事の後のいつものコンビニで、
煙草を買うのをやめて、
猫の缶詰め一つを買うことが習慣になっていました。
今では猫の缶詰めを買うのも恥ずかしくありません。


そうした、ある日。
いつものように猫にご飯をあげて、
家に帰ろうとした時でした。
猫がおじさんの後をついてくるのです。
おじさんは嬉しくなり一緒に帰りましたが、
そのうち猫がいつもいる公園に戻るだろうと思っていました。
いつものコンビニで猫の缶詰めと夕飯を買って、
コンビニから出ていくと、
猫がちょこんと座って待っていました。
「弱ったな」
と、おじさんは言いました。



おじさんが住んでいる新聞配達店の社宅は
、猫が飼えない決まりになっていたのです。
おじさんの社宅には、
新聞配達店の他の従業員が住んでいます。
それに、
おじさんの隣の部屋は、
社宅の大家をしている新聞配達店の店長の家なので、
猫を飼うとすぐにばれてしまいます。
家に帰ったおじさんは、
仕方なく、猫を外に出して部屋に入りました。
ですが、
猫が気になってしまい、
30分おきにドアを開けて、
猫に話しかけました。
「おい、寒くねーか」
と、言って、
小さな段ボールを与えると、
ぼろぼろの猫は、その中で丸くなって寝ました。
猫が寝ているのを見て安心したおじさんも、
その日は寝ることにしました。



あくる日、
おじさんは、
いつものように準備して新聞配達店に行こうと、
家のドアをあけると、
ドアの前で猫がちょこんと座り、
おじさんを待っていました。
「なんだ、いたのか・・・」
と、おじさんは、つれなく猫にいいました。
つれない言葉を口にしましたが、
おじさんは、
猫がドアの外で待っていてくれたらなぁ、
という気持ちでいたので、
とてもうれしい気持ちになりました。
そして、
一緒に新聞配達店に行きました。


猫と一緒に出社したおじさんの姿をみて、
新聞配達店の仲間や店長は、
またまた笑いました。
仲間に笑われたけれども、
おじさんは笑われて恥ずかしかったり照れたりするというより、
今度は、笑われて嬉しいような気持ちになり、
「へへっ」
と、笑いました。


そして、
新聞配達店の店長がいいました。
「猫を社宅によこしちゃだめだよ」
おじさんは、ドキっとしました。
やっぱり昨日のことがバレたんだ、
と、思いました。
猫と一緒にいれなくなることになるかと思うと、
冷や汗が出ました。
続けて店長が言いました。
「その猫が、君に家の前で、ずーっと座っているんだもの、すぐにわかったよ」
つづけて、
「まるで、子どもが親に怒られて、家から追い出されているようだったよ」
と、嫌みのように言いました。
おじさんは、マズイ、と思い、必死で、
「いや、コイツは家族なんです」
と、言いました。
すると新聞配達店の店長をは、ぷぷっと笑いながら、
「家族なら、仕方ないか・・・」
と、言いました。
おじさんは、あっけにとられてしまい、
「えっ」
と、声をあげると、続けて店長がいいました。
「家族なら一緒に住まなきゃ」
会社の決まり事で社宅では動物が飼えないことになっていたのですが、
店長は、
おじさんに、猫と社宅で一緒に住むことを認めてくれたのです。
おじさんは嬉しくなってしまい、
「よかったなぁ、おい」、
と猫に言いました。



おじさんは
、ぼろぼろの猫にゴマと名前をつけました。
小さな体に元気がいっぱいつまっているので、
ゴマと名前にしました。
 おじさんは、ゴマという家族ができて毎日が楽しくなりました。
ゴマと一緒に生活すると、
とても優しい気持ちになりました。 
ゴマも、優しいおじさんと暮らすことで、
心から安心して毎日をおくることができました。

(おわり)